脳の神経細胞は増える

 

今日のテーマは 『脳の神経細胞は増える』 です。

 

初心者のレッスンをする時に、ラケットでボールを下に打ったり上に打ったり裏表交互に打ったりという、ボール遊びのような練習をすることがあります。

皆さんだいたい、利き手側は結構できるのですが、非利き手側は上手くできない人が多いです。

でもそれは当然のことです。普段から、両手をバランスよく使っている人は別として、そうでない人は、非利き手を上手く扱うことはできません。

それはなぜかというと、非利き手の筋肉を動かすために必要な、脳の神経細胞が少ないからです。

通常、体を動かそうとすると、脳と体の間で情報伝達のやりとりが行われるのですが、非利き手を動かす時に活動する脳の神経細胞が少ないために、情報伝達がスムーズに行われない…ということが起こるのです。

最初の段階で、非利き手が上手く扱えず、「僕は運動能力が低い」とか「私はセンスがない」とか言う人がいますが、そんなことはないのです。食事する時や字を書く時に、非利き手では上手くできないのと同じです。

 

分かり易い例として、非利き手の話をしましたが、これは、他の練習にもあてはまることで、「初めてする練習が上手くこなせない」という場合も同じです。

初めてするわけですから、そのような動きに対応するために必要な、脳の神経細胞が少ないため、上手くできないのです。

たまに初めから上手い人がいますが、そういう人は、それまでのスポーツ経験や、普段の体の動かし方、今までの総運動量などにより、「その動きに対応するために必要な脳の神経細胞を既に持っている」ということでしょう。

「それが運動神経が良いってことでしょ!」と言われると確かにその通りなのですが、ここで私が言いたいのは、「それは先天的なものではなく、後天的に作られている部分が大きい」ということです。

もちろん、生まれながらの ❝才能❞ もあるでしょう。でも、ほとんどの場合、それは ❝与えられたもの❞ ではなく、❝変化していくもの❞ あるいは ❝鍛えられていくもの❞ なのです。

脳には、そのような柔軟な能力が備わっているのです。(=可塑性:脳を構成する神経とそのネットワークは固定したものではなく、脳には自分とその周辺の状況に応じて変化する能力があること)

 

脳と体の関係性というのは、「体が脳の支配下にある」と思われがちですが、実は単純な主従関係ではありません。主従関係どころか、脳の機能そのものが体の動きによって変化し、鍛えられていくのです。

例を挙げると、手を動かして何かをつかもうとする時、脳の ❝運動野❞ の手に対応する部位が活動し、動いた手がそれに触れた時には、脳の ❝感覚野❞ の指や手のひらに対応する領域が感受します。このように脳と体の間で情報伝達のやりとりが行われることで、脳が徐々に学習していきます。

そして、何回も何回も同じ動作を繰り返していると、脳が「もっと多くの神経を手の活動に充てる必要がある」と判断して神経細胞の数を増やし、その結果、よりスムーズに情報伝達を行えるようになり、手の運動や感覚に対する活動領域が広がっていくのです。

 

逆に、「使わなければ衰えてしまう」という経験をしたことがある人も多いでしょう。

自分の例でいうと、私は20代の頃、右手の指を骨折し、2週間程ギプスをしていたのですが、ギプスを取った時、最初は右手を上手く動かすことが出来ませんでした。筋肉が減って細くなってるし、関節は固まって動かないし、「たった2週間くらいでこんなことになるのか( ゚Д゚)」と驚いたのを覚えています。

このように、❝ケガ明け❞ の時は、筋肉の衰えや固さがスムーズな運動を阻害するわけですが、実はそれだけでなく、筋肉を動かすために必要な脳の神経細胞が減少したという理由もあるのです。

学生であれば、❝テスト明け❞ で感覚が鈍っている…という経験があると思いますが、同じような現象です。

 

つまり、体を動かしていく程に、その部位を動かすために必要な神経細胞の数は増加していき、体を動かさなければ、減少してしまうということです。

練習を継続していけば、脳の神経細胞が増えてスムーズに動けるようになり、いろんな技術を表現できるようになっていきます。逆に、継続を怠ると、脳の神経細胞が減ってしまい、現状維持どころか、退化してしまう恐れもあるのです。

 

今回の観点からも、やはり、❝積み重ね❞ と ❝継続❞ が大切であることがわかりますね。

 

最後に、D大学准教授のK先生の言葉を紹介します。

『実際にMRIを使って熟練のピアニストの脳の運動野の体積を測った研究者がいる。その結果は予測通りで、指を司る脳部位の体積は一般の人よりも大きかった。特に左手を動かす脳領域でその傾向は顕著だったという。複数の指を同時に複雑に動かすには、より多くの神経細胞の動員が必要となる。指に対応する脳の領域が広いということは、それだけ複雑かつ素早い指の運動が可能ということだ。ただ、そのようなピアニストたちの脳は、生まれながらにして、指に対応している領域が広いわけではない。毎日指を動かすことが脳の変形を促す外力となり、可塑性によって変わっていくのである。』

 

 

 

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