「評価が下がることへの恐怖」は本能

 

今日のテーマは 『「評価が下がることへの恐怖」は本能 です。

前回は、強力なプレッシャーになり得る「対戦相手への意識」の話で、いくつか例を挙げました。今回は、どうしてそれが強力に働くのか?ということと、その対策を考えていきたいと思います。

 

評価を下げたくない

❝前回の例❞ の全てに共通する ❝負けたくない心理❞ の裏にあるものは、実は「自分の評価・価値の低下に対する恐れ」の部分が結構大きいです。

「負けたら周りにどう思われるだろう」「負けたら何て言われるだろう」「負けたらバカにされる…負けたら笑われる…負けたら今まで築き上げてきたものが崩壊する…」というような思考があるのです。

これは、❝敗戦❞ そのものへの恐れというよりも、❝負けた後❞ への恐れ…つまり「負けた後の、周囲の反応・変化に対する恐れ」と言えます。

『人は、「もっと何かを得ていい思いをしたい」という気持ちよりも、「持っているものを失って嫌な思いをしたくない」という気持ちのほうが強い。』という『プロスペクト理論』を以前紹介しました。

人は本能的に、今持っている ❝自分の評価や価値❞ を失いたくないという心理が働くのです。

 

評価を上げたい

人には「誰かから認められたい」という感情を抱く本能があり、これは ❝承認欲求❞ と言われます。(欲求について詳しくは知りたい方は「マズローの欲求5段階説」で調べてみて下さい)

「スゴイと思われたい」「上手いと思われたい」「強いと思われたい」「いいところをみせたい」「成長したところをみせたい」というような思いのことです。

❝承認欲求❞ は行動力へのモチベーションやエネルギーになるという良い面がある一方、その欲求が強すぎると、周りの評価に対して不安や恐れを抱く要因になってしまいます。(「うまくできなかったらどうしよう」「弱いと思われたら嫌だ」「成長してないと思われる」…とか。)

また、日本の学校教育や家庭内教育では、多くの場合、失敗するとすぐに注意したり怒ったりするので、そういう環境で育った子供達は「失敗はダメ」「失敗は恥ずかしい」「失敗をしてはいけない」という認識を当たり前のように持ってしまいます。

結果、❝失敗を恐れる子❞ ❝周りの目を気にする子❞ に、より一層なっていきます。そうなると当然、「失敗すると周りからの評価が落ちる」という思考に繋がることになります。

そしてほとんど自覚症状がないまま「失敗=恥、失敗=自分の価値の低下」と考えてしまう習慣が身についてしまいます。

更にそこに「失敗をして恥ずかしい思いをした」という実体験が重なってしまうと、その傾向がますます強化され、周りの評価を過度に気にするメンタリティが育ってしまうのです。

このような理由により「対戦相手や周囲の目を過度に意識することで、許容範囲を越えるプレッシャーを発生させてしまい、本番で実力を発揮できない」ということが起こってしまうのです。

 

思考の素振り

じゃあどうすればいいのか? ということなのですが、やはり実践では、今まで何度も言ってきているように、「ボールに意識を集中させて、❝雑念❞ に意識を向けないようにする」ことでパフォーマンスを安定させたいです。もしそれが完璧に出来れば問題は解決です。

しかし、「自分の評価・価値が下がることを ❝過度に❞ 恐れてしまう(恥をかきたくないと ❝過度❞ に思ってしまう)」という ❝思考習慣❞ が定着している人にとっては、そんなに簡単な問題ではありません。

ですので、その ❝思考習慣❞ 自体を入れ替える必要があります。「失敗するのは当たり前」「失敗は成功の元」「失敗するからこそ上達できる」「恥をかくからこそ成長する」「別に命を取られるわけではない(たいしたことではない)」というような ❝思考習慣❞ に入れ替えていきたいです。

もちろん、❝思考習慣❞ というのは、今までの思考の(生きてきた年数分の)積み重ねにより、徐々に形成されたものですから、そう簡単に変えられるものではないです。時間がかかります。中長期目線が必要です。

取り入れたい新しい思考を、何度も何度も実践し積み重ねていくことで(『思考の素振り』)、間違いなく変化が見られるようになってきます。

スキル(技術面)やフィジカル(体力面)と同じく、メンタル(精神面)も、一気に成長することはできません。

日々『思考の素振り』を実践することで、少しづつスパイラルアップが起こるのです。

 

ミスするとすぐに凹んでしまう

一般的に、多くの人は ❝失敗❞ をすると、ネガティブな感情を伴わせます。上記にも書きましたが、子供時代にそのように教育されるからです。

「ミスしてもまた次頑張ろう!」と、すぐに切り替えて先に進もうとする子や、ミスしてもあまり気にしないポジティブな子もたまにいるのですが、そういう子は、「なんだその態度は!反省してるのか!反省の色が見えない!」などと言われて怒られたりします。

そして何回も怒られているうちに、子供たちは「ミスをしたら凹んだフリをしないといけない」⇒「ミスをしたら凹まなければならない」などと考えるようになり、そういう態度をとるようになります。

最初のうちは ❝凹んでいるフリ❞ だったとしても、何回も何回もそんなことがあると、それが積み重なって習慣化され、❝失敗したらネガティブ感情を伴わせる❞ という思考習慣・行動習慣が出来上がります。

そうしてせっかく元々ポジティブだった子でさえ『ミスをするとすぐに凹んでしまう子』になってしまうのです。

「失敗を怒る教育」恐るべしです。

 

ミスをした時の反応を変える

もし選手が『ミスをするとすぐに凹んでしまう子』なのだとしたら、その ❝ミスに対する反応❞ を変えた方が良いと思います。

「ミスに対してネガティブ感情を出さない(すぐに切り替える)」ことができるようになりたいですので、「 ❝ミスに対する反応❞ を変える」練習をする必要があります。

本番の試合では、ポイントが終わったらすぐに次のポイントが始まるので、長く考え込む時間はないですし、凹んで引きずる時間もありません。(もちろん人間なので凹んで尾を引くことはありますが、そうなってしまうとパフォーマンスが下がります。)

ですので、「ミスをしたらフィードバック(修正)して、すぐ次に進む」とか、「痛いミスをしたり、アンラッキーなことがあっても、忘れて次に進む」とか、そのような思考・態度を身につけるべく、普段の練習の中で、それを実践する必要があるでしょう。

練習の時にネガティブ感情を引きずって切り替えできないと、練習の質や効率が低下するでしょうし、試合の時にネガティブ感情を引きずって切り替えできないと、それは敗戦確率を上げてしまいます。

ということで、「ミスしたら修正して次!」「失敗したら学んで次!」状況によっては「忘れて次!」という思考習慣・行動習慣を身につけられるよう、『思考の素振り』を積み重ねて欲しいと思います。

そしてそれは、練習の場(コート上)だけでなく、日々の生活の中でも実践できます。テニスコートでも学校でも家でも「ミスしても修正して次!失敗しても学んで次!失敗するからこそ上達できる!」です。

この 『思考の素振り』は、❝気持ちの切り替え能力向上❞ のために大いに役に立ってくれると思います。

 

名言集

それでは最後に、偉人の言葉です。

 

「人間を不安にするものは事物にあらず、事物についての意見なり。」

エピクテトス(古代ギリシャの哲学者)

 

「人間は、恥ずかしさという思いに比例して進歩するものだ。」

野村克也 (元プロ野球選手・コーチ・監督、プロ野球史上初・捕手の三冠王獲得、通算本塁打数歴代2位・657本、通算の安打数・打点数も歴代2位)

 

「私は恥をかくために生きていると思っているので、恐いものはない。」

永六輔 (タレント、放送作家、作詞家)

 

「恥を知らないということほど恥ずかしいことはない。」

吉田松蔭 (明治維新の精神的指導者・倒幕論者。私塾「松下村塾」で、後の明治維新で重要な働きをする多くの若者に思想的影響を与えた。)

 

「恥ということを打ち捨てて世の事は成るべし。」

坂本龍馬 (倒幕・明治維新に関与した重要人物、土佐派維新志士)

 

「恥ずべきことに無恥があり、なんでもなきことに恥じている人間は、他人の虚像の思想にかぶれている人間なり」

釈迦 (紀元前5世紀頃の北インドの人物で『仏教』の開祖。すぐれた修行者や聖者に対する呼称であった「ブッダ」が仏教で用いられて釈迦の尊称となり、「ゴータマ・ブッダ」とも呼ばれている。)