「褒めて育てる」の問題点

 

今日のテーマは 『「褒めて育てる」の問題点』 です。

 

近年、「子供は叱るよりも褒めて育てよう」という風潮が強くなっています。

「子供を厳しくしつけるよりも、良いところを伸ばすように褒めて育てたほうがいい」

「褒めて自信を持たせることで、❝自己肯定感❞ が育まれる」

「 ❝自己肯定感❞ がある子どもは、たとえ失敗や挫折をしてもたくましく立ち直る」

・・・etc。

これらは、1990年代から現在に至るまで、日本の育児法の主流として定着した「褒めて育てる」という考え方に基づくものです。

実際、「❝子供には罰よりも報酬を与える方が良い❞。これが正しい考え方である。」という世間の風潮があるので、その流れに乗って「褒めて育てる」子育てをしている人が多いようです。

確かに、いつも「○○くん○○ちゃんは良い子だ」と伝えて育てることで、自信に満ちあふれた幸せな子に育ちそうな気がしますし、実際、そういう教育を実践している人も多いと思います。

意識的にそうしようと考えてはいなくとも、なんとなくそういう方向が正しいと感じて、特に深く考えることなくそうしてしまっている、という人も少なくないかもしれません。

 

ところが、教育心理学の現場で長いキャリアを持つ心理学者の榎本博明先生によると、必ずしも ❝褒めて育てる❞ ことが正解であるとは言えないそうです。先生は次のように述べています。

「『褒めて育てる』という考え方が導入された結果、傷つきやすく、厳しい状況になるとすぐにへこたれる若者が増えてきています。叱られると落ち込んで会社を休む若手社員や、注意すると逆ギレして『パワハラだ!』と騒ぐ若手社員に、いまや多くの管理職や経営者が手を焼いています。」

上記は社会人の話ですが、学生に関してもほぼ同じことが言えるでしょう。

 

では、❝褒めて育てる❞ に潜むリスクを挙げてみます。

・褒められるばかりだと、それが当たり前になり、褒められないと行動しない、褒められないとやる気がでない、ご褒美がないと動かない子になる。

・褒められるばかりだと、「自分は正しい」と、自分に自信を持ち過ぎてしまい、「できなかったのは自分が悪いのではなくて周りが悪い」と他人のせいにしたり、モノのせいにしたり、言い訳が多い子になる。

・褒められるばかりだと、プライドが高くなり、「失敗するわけにはいかない」という思いから、チャレンジしない子になったり、失敗した時に「この失敗を知られたくない」という思いから、嘘をつく子になる。

・叱られ慣れていないがために、ちょっと叱られただけで、すぐに心が折れてしまう子になる。

・叱られなくても、注意されただけで、自分が全否定されたように受け取ってしまい、怒り出したり落ち込んだりする子になる。

・注意されるべき時に甘やかされた子は、ここぞという時に実力を発揮することができない。

・泣いたり怒ったりすねたりすれば何でも買ってもらえたり、周りが何でも言うことを聞いてくれる…という激甘環境で育った子は、大人になってからも同じような態度を取ることになる。

・・・・etc。

このように「褒めて育てる」という思想には、いろんなリスクが潜んでいますので、「これが最良の子育て法だ!」と盲信して固執してしまうのは危険であると言えるでしょう。

もともと「褒めて育てる」という考え方は ❝自己肯定感❞ を養うためであるはずですが、逆に「褒めて育てる」という方針が、❝自己肯定感❞ の育成を阻害している可能性もあるのです。

 

そして、実はその実態を伺わせる調査データ(「高校生の生活意識と留学に関する調査――日本・アメリカ・中国・韓国の比較」)もあります。

そのデータによると、「自分はダメな人間だ」という項目に、「よくあてはまる」と答えた高校生の比率が、1980年には12.9%だったのに対し、2011年には36.0%と、約3倍に増加したそうです。

榎本先生は「この結果は、1990年代に導入された『褒めて育てる』という思想が、必ずしも ❝自己肯定感❞ にはつながらないこと、そして、むしろ ❝自己肯定感❞ の育成を阻害する可能性があることを示唆している。」と述べています。

もちろん「褒める」こと自体は悪いことではないですし、子供でも大人でも褒められればうれしいでしょうし、やる気が上昇することも多々あると思います。ただ、「褒められることしか知らず、叱られることに「免疫」がない子は、打たれ弱い大人になっている」という事実が、近年実証されつつあるのです。

 

それでは最後に、「なぜ『褒めて育てる』という考え方が広がったのか?」についてと、「その問題点」についてです。

この「褒めて育てる」という思想は、90年代に欧米から伝わってきましたが、2000年代になってすぐ、大きく流行しました。そのきっかけとなったのが、国際的に行われた ❝自己肯定感調査❞ でのアンケート調査結果です。欧米諸国の学生に比べ、日本の学生の ❝自己肯定感❞ が断然低かったことを受け、欧米で行われているやり方を日本でも取り入れようという動きが広まり、その1つが『褒めて育てる』という教育法だったそうです。

しかし、榎本先生は、欧米で良しとされている「褒めて育てる」という考え方を、日本でそのまま取り入れるのには無理があると指摘します。以下、榎本先生談です。

日本と欧米が圧倒的に違うのは、欧米では『先生・親は権威者』という位置付けであることや、『大人の世界と子供の世界は別である』という前提があるということ。親が子供に合わせる姿勢は乏しく、赤ちゃんのうちから親の都合を教え、親に合わせるよう教え込んでいる文化である。いくら親子でもそれぞれ心理的に距離のある個人であり、それゆえ、その距離のある個と個を、褒めることによって繋げようというのが欧米流の親子関係の考え方。ただし、褒めても成果を出せない者は厳しく切り捨てられるという厳しい一面があるのも、欧米社会の特徴。このような厳しさが背景にあるからこそ、『褒めて育てる』ことで親子が心を繋いできたというのが欧米社会のあり方なのである。」

「一方日本では、子供が幼いうちは親子が一緒に寝て、お風呂も一緒に入るのが当たり前。個人対個人という意識はあまり無く、特に母子間には心理的にも強い一体感があり、褒める前からすでに濃密な心の交流が行われている。さらに、できる子もできない子も、言うことを聞く子も聞かない子も、分け隔てなく暖かく包み込むのが日本社会である。」

「つまり、欧米での『褒めて育てる』という思想を、文化的伝統の違いを無視して『海外のやり方は素晴らしい、日本は遅れている』とそのまま持ち込むのは、とても正解とは言い難いのである。」

 

(次回に続く)

 

 

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