睡眠負債

 

今日のテーマは 『 睡眠負債 』 です。

 

睡眠負債とは

「人は一定の睡眠時間を必要としており、それより睡眠時間が短ければ、足りない分が蓄積する。つまり眠りの借金が生じる。」

これは、世界一の睡眠研究所であるスタンフォード大学・睡眠生体リズム研究所の初代所長ウィリアム・C・デメント教授が、1990年代から使い始めた「睡眠負債(Sleep Dept)」と呼ばれる概念です。

 

「睡眠負債」に関する実験

1990年代、「睡眠負債」に関する研究として、平均睡眠時間7.5時間の健常者8人に、毎日14時間ベッドで寝てもらうという実験が行われました。この8人は実験開始当初、13時間近く眠れていたのですが、徐々に長く眠れなくなってきて、3週間後には8.2時間に固定されました。この結果から「この ❝8.2時間❞ が、被験者8人の生理的に必要な睡眠時間である」ということが分かりました。

ということは、普段7.5時間しか寝ていなかった被験者たちは、1日約40分の「負債」を積み重ねていたことになります。

そしてその「長期にわたる1日40分の負債を返済するためには、14時間の睡眠を3週間も続けなければならなかった」ということが分かったのです。

1日や2日の ❝寝だめ❞ では、到底「睡眠負債」は解消できないということです。

さらに睡眠が厄介なのは、「負債」にはなっても「貯金」はできないということです。また、時差調整でもそうですが、睡眠時間を後ろにずらすのは比較的簡単なのですが、前倒しするのは難しい。「今日は早く寝よう」と思っても、思い通りに寝つけないことが多いと思います。

 

日本人の多くが「睡眠負債」を抱えている⁉

実はこの「睡眠負債」、日本人の多くが抱えていると言われています。成人であれば1日6時間半~7時間半の睡眠時間が必要と言われていますが、厚生労働省の調査によると、睡眠時間が6時間未満の人は、全体の約4割、40代については約半数にものぼるそうです。

怖いのは、「睡眠負債を抱えている」という自覚がしばしば欠けること。睡眠が足りていないにもかかわらず、それに気づいていない人が少なからずいるということが推測されています。

 

「睡眠負債」の恐怖

「睡眠不足」という言葉がありますが、「睡眠負債」とは少し意味が異なります。どう違うのかというと、「睡眠不足」が1日単位で短期的なのに対し、「睡眠負債」は持続的、慢性的な概念であるということです。 短期的な「睡眠不足」が続くと、「睡眠負債」がどんどん蓄積されていく感じです。

それでは、「睡眠負債」が蓄積されると、身体にとってどんな悪影響が及ぶのか、時間を追ってみていきます。

・数週間続くと・・・自律神経の乱れ → 高血圧、不整脈
まず、自律神経のバランスが崩れてきます。交感神経が優位となり、高血圧や不整脈が出現しやすくなります。

・数ヶ月続くと・・・ホルモンバランスの乱れ → 肥満、糖尿病、脂質異常
眠っているときに多く分泌される成長ホルモンが減り、変わってストレスホルモンである副腎皮質ホルモンが多く分泌されるようになります。疲労回復が遅れ、免疫機能が低下しやすくなります。さらにインスリン抵抗性が上がり、また食欲を制御するレプチンの分泌が抑制されるため、肥満や代謝異常が進みます。

・数年続くと・・・精神神経系の異常 → 抑うつ
セロトニンやカテコラミンなど、生命維持に必要な物質が枯渇するようになり、抑うつ状態を引き起こしやすくなります。

・15年程続くと・・・脳内の老廃物が沈着 → アルツハイマー病
脳内の老廃物といわれるアミロイドβなどの物質が除去されにくくなり沈着、アルツハイマー病など認知機能の低下を引き起こしやすくなると言われます。

このように、「睡眠負債」を長く抱えていると、知らず知らずのうちに身体の状態が良好ではなくなっていき、さまざまな不調や肥満、生活習慣病などのリスクが高まってしまいます。

また、「睡眠負債」を抱えている人は、日々のスポーツや勉強や仕事の場においても、判断力や記憶力や集中力が低下したり、単純作業でのミスが増えたり、ストレスに弱くなったり…などパフォーマンスが低下し、成果や結果に悪影響をおよぼす可能性があります。

更に恐ろしいことに、「睡眠負債」からの防御反応として、1秒から10秒ほど脳が働かなくなり眠ってしまう、 ❝脳の瞬間的居眠り❞ と呼ばれる「マイクロスリープ」という状況が起きやすくなるそうです。

「睡眠負債」は ❝百害あって一利なし❞ と言えるでしょう。

 

負債を返済する方法

ということで、「睡眠負債」はできる限り解消したいです。ここからは ❝負債の返済❞ について考えていきたいと思います。

負債を返済するには、睡眠時間を毎日少しずつ増やすことが大切です。まずは「プラス1時間」。1時間早く就寝するのが難しい人は、「30分早寝&30分遅起き」などを試してみましょう。

もっとこまめに負債を返していくには、10~15分の「プチ昼寝」も効果的です。日々の昼寝を習慣化するのです。エジソンやナポレオンが昼寝の名手であったことは有名ですが、現代でも充分に成り立つ手法です。「昼寝は10~15分程度で目覚めるものが、起きてからの脳の働きが良くなっている」という研究結果もあることから、長く眠るよりは「短い時間、脳のスイッチを切る」といったイメージのものが良いと思われます。そこまで時間が取れない場合は、5分でもよいので静かな場所で目を閉じているだけでも脳の機能が回復するそうです。

「睡眠負債」はしっかり睡眠時間を確保することでしか解消できないと言われていますが、「眠りの質が良ければ、短時間の睡眠でも問題ないのでは?」と考える人もいるかもしれません。しかし、研究チームは『「量(時間)が十分に足りている」+「質の良い眠りである」+「すっきりと目覚められる」』という3点が揃って初めて、理想の眠りが獲得できると言います。もちろん質は凄く大事なのですが、質だけでは充分ではないのです。

稀に短時間睡眠でも平気で生活できる ❝ショートスリーパー❞ と言われる人がいますが、そのほとんどは遺伝的素質によるものであり、普通の人とは異なるということが研究の結果わかっています。誰もが努力して ❝ショートスリーパー❞ になれるものではなく、むしろ健康を害する可能性が高いと思われます。

 

睡眠の質を高める方法

ここからは ❝睡眠の質を高める方法❞ についていくつか例を挙げたいと思います。

『スタンフォード式 最高の睡眠』には、睡眠の重要ポイントとして「眠り始めの90分間に健康にかかせない成長ホルモンが最も多く分泌されるので、眠り始めの90分間が特に重要であり、この ❝黄金の90分❞ に深い睡眠ができるようにしましょう。」と書かれています。以下に、深い睡眠をするために実行すると良いことを3つ紹介します。

① 就寝1時間半前の入浴
睡眠の質を高めるために、寝る1時間半前くらいに入浴をするのがおすすめです。人の体は1度体温が上がり、じわじわと下がっていくときに眠気が訪れ、そこから深い眠りに入ることができるからです。反対に、寝る直前の入浴は体温が高い状態がしばらく続くので、寝つきが悪くなってしまいます。

② 「寝る前スマホ」を控え、「朝スマホ」を習慣に
スマホやパソコンの画面から発せられるブルーライトが目に入ると、脳が「昼間だ」と錯覚し、睡眠を誘うメラトニンというホルモンの分泌が減少してしまいます。寝室にはスマホやタブレットは持ち込まないようにしましょう。どうしても使いたい場合は、画面の明るさをダウンさせたり、ブルーライトをカットするフィルターやメガネを使うようにしましょう。ちなみに、ブルーライトそのものは日光の中にも含まれるもので、目を覚ましたいときには効果的です。朝の通勤中にスマホでニュースや新聞記事を読むのは眠気覚ましにもなります。

 夕食が遅い日は「炭水化物先取り」
食後すぐに布団に入ると、寝ている間も内臓は働かねばならず、眠りが浅くなり、充分な疲労回復を望めません。とはいうものの、部活や塾や仕事の関係で、夕食が遅くなってしまうという人も多いでしょう。そういう人には「炭水化物の先取り」がおすすめです。19時ぐらいにおにぎりやパンで炭水化物をとり、帰宅後にサラダやスープ、豆腐や卵などのライトなおかずをとるという方法です。夜遅くの食事を軽くすることで、消化器官の負担を減らすことができ、睡眠への悪影響を軽減できます。

 

最後に

睡眠負債状態が改善すれば、免疫力が上がり病気になりにくくなるだけでなく、ストレスに強くなったり、集中力が高まったりと、心身のパフォーマンス向上が期待できます。また「睡眠時間を十分とれている人は人生の満足度が高い」という研究データがあるほど、睡眠と生活の質は大きく関係しています。今まで睡眠について考えたことがなかったという人も、是非一度真剣に考えてみてはどうでしょうか。