今日のテーマは 『 デリバレートプラクティス 』 です。
❝10年ルール❞ を提唱したエリクソン教授は、「デリバレートプラクティス」の重要性に関する研究を数多くされ、❝先天的才能❞ が如何に過大評価されてきたかを証明してこられました。
今回は、そのエリクソン教授の研究の中でも、特に優秀とされる研究を紹介します。
「デリバレートプラクティス」の定義
とその前に…まずはエリクソン教授による『デリバレートプラクティス』の定義です。次の3つになります。
①「明確な目標を掲げ、そこに到達すべく精密に構成された練習であること」
②「弱点を克服するために、具体的な課題が課されている事」
③「上達に向けて正しい方向に向かっているかどうか、コーチや先生に注意深くチェックされていること」
エリクソン教授の研究
それではエリクソン教授の研究を紹介します。
その研究とは、1991年にドイツの「西ベルリン音楽アカデミー」という有名な音楽学校のバイオリニストを対象に行った研究です。
まず、エリクソン教授は、被験者であるバイオリニストを能力に応じて次の3つのグループに分けました。
①国際コンクールで結果を残し、将来ソリストになることが期待される最も優秀な生徒グループ
②オーケストラの演者になれる程優秀ではあるが、グループ①の生徒よりもやや劣る生徒グループ
③プロの演者になるのは難しいと思われるため、音楽教師を目指している生徒グループ
そして全生徒を対象に、「何歳でバイオリンを習い始めたのか?」「1日何時間練習しているのか?」「親族に音楽家はいるのか?」など、様々な聞き取り調査を行いました。
そしてその調査の結果、生徒たちの環境や経験においては、どのグループも非常に似通っていることがわかりました。
「レッスンを受け始めたのは8歳頃。」
「音楽家になろうと決意したのは14,15歳の頃。」
「教わった先生の数は平均4人。」
「バイオリン以外に習った楽器は平均1.8。」
このように、環境や経験にはあまり差がなかったのですが、ある部分において、決定的な相違点があることもわかりました。
それは、「今まで費やしてきた練習時間の合計」、更に言うと「デリバレートプラクティス」の累計時間でした。つまり、グループ①の生徒は、時間の長さも、取り組み姿勢も、1番優れていたのです。
グループ①の生徒は、20歳になるまでに、平均で1万時間の練習を積み重ねていました。(8歳から始めて約12年間で1万時間、ということは、単純計算で毎日2時間以上の練習をしてきたことになります。)それは、グループ②の生徒よりも2000時間多く、グループ③の生徒よりも6000時間多い数字でした。
名だたる音楽学校の生徒さんですので、皆さん、真面目に真剣に練習に取り組んできたと思いますが、その中でもグループ①の生徒は、「より長く、より内容の濃い練習」を積み重ねていたのです。
その努力の蓄積により、国際コンクールで結果を残す程の実力者となり、将来を大いに期待される存在になることができたのです。
自分なりの「デリバレートプラクティス」
ということで、「 ❝超一流❞ は、練習時間の長さと取り組み姿勢が群を抜いている」というエリクソン教授の研究を紹介しました。
エリクソン教授は、この研究においても、❝先天的才能❞ が過大評価されていることに対して、疑問を投げかけたのでした。
今回の話は「世界トップクラスを目指す人限定の話」のように思う方もいるかもしれませんが、この「デリバレートプラクティス」は、世界のトップを目指す人だけではなく、段階に応じて、幅広く様々な人の役に立つ ❝考え方❞ です。(日本のトップ・地区のトップ・都道府県のトップ・学校のトップ・・・etc。)
やはり、何をするにしても、「目標を持つ」とか「真面目に真剣に取り組む」とか「心を込める」とか「集中する」などを実践することで、間違いなく効率が上がります。
たとえ、「そんなに多くの練習時間を確保できない」とか「毎日はできない」という環境であったとしても、練習時に「デリバレートプラクティス」を意識することで、効率は必ず上がりますし、やった分だけの向上があるはずです。
プロになりたい!全国大会で上位入賞したい!県で優勝したい!もっとうまくなりたい!とか、人それぞれ目標があると思いますが、その自分だけの目標に向かって、自分なりの「デリバレートプラクティス」を考えて実践していってください。
名言集
では最後に名言集です。
「継続は力なりで、粘って粘って何度も何度もチャレンジしないと何事も成功しない。」
稲盛和夫 (京セラ・KDDI創業者、日本航空名誉会長)
「創造性豊かな攻撃はトレーニングによってのみ可能である」
イビチャ・オシム (ジェフユナイテッド市原・千葉、日本代表で監督を歴任したサッカー指導者)
「有名な人と普通の人を分けるのは、何かに打ち込んだ量の差だと思う。」
イアン・ソープ (男性競泳選手、オリンピックで5つの金メダル獲得)
「バッティングは、練習に次ぐ練習で身体の反応にしてしまうしかない。ボールを見たら反射的に身体が動いて打てるようにすることだ。」
カル・リプケン (メジャー屈指の遊撃手、2632試合連続出場は世界記録)
「天才だと?37年の間、毎日14時間練習を続けてきた私をつかまえて、天才呼ばわりする気か!」
パブロ・テ・サラサーテ (作曲家・バイオリン奏者)